debtのブログ

借金 クレジット

萬田銀次郎に憧れた金貸し

恥ずかしいぐらいに派手なベンツが交通ルールも守らずに走行していた。
品のない派手な色のスーツに、品のない柄のシャツを合わせ、サングラス姿。
 
夜の商売でいろんな人間と出会ってきた中で、人を見る目は肥えてきているはずだった。
恐らく、ヤクザではない。
 
トイチの金貸し。
 
言葉は荒く、携帯電話がなるたびに優しさと怒鳴り声を使い分けていた。
 
自宅兼事務所には監視カメラを多数設置して、リビングのモニターでチェックしていた。
債務者の恨みをかったり、同業者の襲撃に備えてのものだ。
部屋の奥の大きな金庫には札の束が積まれていた。といっても、300万円ほど。それでも、オレの目には大金だったし、金が利益を産むことを聞いては酔いしれていた。
債務者が警察に借用書を持って駆け込まれ、捜索が入ったときのために、まだある多額の現金と客の借用書は実家だという。
 
融資を受ける客と、期日に返済に来た客には優しかった。し、商売の話を聞いては、なにか旨味がないか、金を出してやればもっと、多額になって返ってくるのではないか、と目がぎらついていた。
 
返済の期日に連絡がつかなくなり、約束を破って逃げていた客が、観念して事務所にやってきた。
オレに、黙って客を睨んどけ、という。
逃げた客が事務所のドアを開けるなり、首を捕まえ、怒鳴り散らす。灰皿を投げる。手当たり次第に投げつける。
なぜ、逃げた?なぜ、困ったお前に金を貸した俺を裏切った?その返済がなければ、俺が食っていけない。
そんなことを喚き、怒鳴り続ける。
暴力、というギリギリ一歩手前で踏みとどまる。
オレを見やり、俺の若いのがお前をトルって言うから、俺が止めてたという話をしていた。
オレはアニキの顔に泥を塗られて、いきり立った子分だ。
立場が違えば、終始無言のオレは気味が悪い。
 
取り立ては茶番劇だった。

 

あの追い込んだ金貸し

借金というものや、こと、に最初に触れたのは親族とその親族の経営する会社だった。

 
何も考えず、アルバイトの延長のような正社員になっていた。
人手不足の業界、同級生も誘い入れ、一緒に働いていた。
親族、というよりも父の会社だ。父が専務。
父の姉のオバが社長、妹さんは事務員、妹さんの旦那がいて、その兄もいて。
父の兄のオジは出入り業者。
血縁のない社員も数名の一族経営。
 
何事もなく毎日が過ぎていた。
将来はこのままダラダラと、この会社の社長になるのが自分のこの先。
大して夢も希望もなく、甘やかされた状況と周囲よりはという金ならあった。
 
異変、なんて気付いたときには最終局面だったのではなかろうか。
税理士の来社と滞在時間が増えて、深刻で暗い社内の雰囲気、それぐらいだった。
 
結果的にこの規模の会社では考えられない額の借金を抱えていた。
売り上げとしては順調だった。
その状況を元手に借金をし、ノンバンクまで借り入れの手を伸ばし、手形を決済できない状態、不渡りになった。
 
その晩から金融関係者の出入りが激しくなった。
金融、というよりヤクザ金融だ。
 
オバは行方がつかめなくなり、妹さんは手形の裏書き、保証人になり家にも帰れずにホテルに家族で隠れていた。
オレと同級生は未成年だったこともあり、知らないで通せると、留守番役だった。
 
会社には取り立てがひっきりなしに訪れ、その応対をした。
毎晩のように現れる金融関係者。
助けてくれるという話や人が現れては消えてゆき、話は毎日、二転三転とした。

 

今も仕組みがわからない

当時、暗躍する中国人の犯罪がニュースになることが多かった。

 
オレの店にも胸のポケットに300万円ほどの束を突っ込んだ中国人(すでにどうにか日本人として生きていた)が、出入りしていた。
 
出勤前の日中、不釣り合いに昼の繁華街で出くわした。
付いて来いと誘われ、あるパチンコ屋に入った。
面白いから、当たったらあげるから、彼はそう言い、オレと並んで座った。
それほど客の多くない店の、爆発力があるとされていた機種だったと思う。
中央のデジタルが10回ほどハズレたあとっだったろうか、次当たるよ、と言った。
そして、その通りに7が三つ揃った。
 
隣の台では、同じ様に当たりを引き、二人で一時間ほど出した球を換金した。
 
それが仕込んであったものなのか、信号でも発して当てたのか、わからなかった。
 
その数年前には、夜のパチンコ屋に忍び込み、台のロム、コンピューターを替えるゴト行為や、営業時間中でも、見張りを立てたり、監視カメラから隠すなどして、台の鍵をピッキングで開錠し、ロムを交換するなど、パチンコ絡みの犯罪は中国人の稼ぎだった。
 
 
 
警備が厳しくなると、パチンコ屋に忍び込むことはせず、パチンコ台の製造メーカーの工場や、出荷待ちの倉庫に忍び込んではロムを替え、その倉庫から出て行くトラックの後を追うようになっていた。
 
後は新台入れ替えされた台に打ち子が座り、ある操作をすれば大当たりが引けていた。
 
彼らのパチンコ屋から金を稼ぐ執念は驚くものだった。

 

ミナミの帝王が人気だった

オレの夜の店には暴力団関係者の客も多かった。 一昔前の夜の繁華街、その一本裏通りにはそういった人間がたくさん居た。

 
その中には金貸しをする人も多かった。
月一割や二割、トイチ、スタイルも様々だった。
 
今のようにコンビニATMもない時代。
夜遊びで金が尽きたら、帰る以外にない時代。
 
その当時は真っ当に看板を揚げているが、違法なカジノやゲーム喫茶は多数あった。
その店の片隅でじっと客の様子を窺い、手持ちがなくなった頃合いで声を掛けて融資する人もいた。
 
オレのような夜の飲食店の営業者はどうしても現金が必要になってくる。
スタッフの女性の給料が全額日払いだったからだ。
客からの支払いは現金のみならず、カード、売掛があった。売り上げはあっても現金が回らない。
そんな日は電話一本で融資してもらっていた。
店と常連客という間柄、トイチで良いと言って借りていた。借用書は必要なかった。
 
月末には入金がある。今日を乗り越えれば、という考え方ばかりしていた。
 
オレにある信用なんて、そんなもんだった。
今夜を助けてくれるだけ、ありがたかった。

 

後悔する分岐点

名義がオレの、少なくとも100万円は、この二ヶ月間の労働力は、オレの店だった。

 
社長の双方にいい顔をした嘘がバレた。
オレが出した準備金の話をオーナーにすると、オレに渡すようにと社長に100万円を預けたという。
社長が100万円を着服していた。
 
オレは借金をし、店の準備をするお金に当てたことをオーナーに話した。
社長が返済次第、オレに渡してくれるということだったが、その約束はいつまでも、結局守られることはなかった。
 
守りたい、オレの店。やっと持てた、夢が叶った店。
社長というプライド。
友人たち、周囲からの目。
 
自分自身を守ることが借金地獄への入り口だった。
大した利益も出せていなかった。
ケチがついた店。
 
オーナーだというオーナーに店を明け渡し、逃げ出していれば良かった。

 

話が違う

オレの店には度々、ビルのオーナーが来店していた。

オレが、どういうわけか入居した店舗は、金を持っていなかったオレにとって、オーナーの力添えが無くてはならなかった。
オーナーが客を連れてきたり、客人をもてなすために、という理由で、店の名前はオーナーが付けたものだった。
社長からは、色々お世話になっているのだから、店の名前ぐらい譲っておけという説明だった。
 
そこに一つ、社長への不信感があった。
オレがオーナーの、オレの店ではないのか?
 
オープン早々から、オーナーは、まるでこの店のオーナーのように振る舞っていた。
多くの資産家や金持ちのイメージがそうなように、態度がデカいと思っていた。
だけど、オレだって客商売の心得はある。
お金を落としてくれる以上は文句ない。
 
オーナーには、ことあるごとに、売り上げはどうかと気にしてもらっていた。
正直、オープン当初、悪くもないのだが、開店お祝いの雰囲気が収まった後、利益が残る売り上げが出せるのか、自信がなかった。
 
オープンして二ヶ月ぐらいが過ぎたころ、帳簿を見せろという話になった。
仲の良い銀行の支店長に紹介してくれるということだった。
売り上げは一旦、夜間金庫を使った方が良いということや、帳簿をきちんと付けてくれれば、融資ができるようになるかもしれない、との内容だった。
 
その帰り道に、一体いつになれば、利益を届けに来るのか、と言われた。
売り上げから経費を差し引いた、残りのお金、そこから投資したお金を回収するのだ、という。
 
自分とオーナーでは店に対する認識が違った。
 
自分は、前の店の未払い給料の代償として、社長の知人のオーナーに甘えながらも、持った自分の店。
オーナーは社長に持ちかけた、自社のビルの空きテナントで賃貸料を発生させてくれる、雇われ店長を探していた人捜し。そこに紹介されたのがオレ。
 
社長は二人の間で双方に嘘をついていた。
 
しかし、店の準備はオレの借金で賄ったものだ。
名義もオレだ。
オレの店だと突っ張るだけの材料は、こっちの手にあった。

 

20年近く前

最近のニュースで耳にした、金にまつわる事件。

南アフリカの銀行発行のカード情報が盗まれ、カードが偽造され、そのカードで日本のコンビニATMから現金が引き出された。それも多くの県にまたがり、ほぼ同時刻に一斉に引き出された。
末端の出し子が逮捕されたニュース見聞きしたと思う。
 
夜の繁華街の飲食店を経営していれば、自然と夜の闇に紛れて生きるという言葉しか似合わない、そういう稼業の人との繋がりができてしまう。
オレはそれを断ち切る強さもなかったし、その繋がりの中で勘違いした強さを持ち、足を踏み入れる。
 
代紋の違う組織の人間とそれぞれに付き合い、スタッフの女性の彼氏がそっちの世界だと話をし、常連だった人間が直参に出世するなら一席設け、月々の守代を渡した。
電話をすればすっ飛んで来てくれる、オレのなけなしの金に寄ってきた人間たち。
 
夜の街では現在のニュースと同じモノがあった。
中国人の持つただのプラスチックに磁気テープが貼られたようなクレジットカード。
これで店の売り上げとしてカード決済をする。
翌月末には入金され、その金を7対3で分ける。
中国人犯罪者の仕事。
当時は蛇頭という密入国を仕掛ける組織が、中国から船で、不法入国者を連れてきていた。
とある浜辺で4トントラックで待機しておく。そこに不法入国者が上がってきたところを先導役がトラックに詰め込む。
後は約束の場所でトラックから密入国者を下ろす。
手っ取り早く稼いで国に還るために、彼らも犯罪組織に加わる。
そんな密入国したての中国人に自己紹介されたことがある。仕事は何でもするよ、殺しは3万円からだ。
 
犯罪組織の人間に囲まれていく中で、借金まみれのオレには、彼らの持つ大金がうらやましく光って見えた。