debtのブログ

借金 クレジット

飛んだ

最終的に、店は閉めざるをえなくなっていた。

今晩、店を営業するための金、給料の支払いも微妙な店には来ないスタッフ、オレ自身が通うお金、もちろんの支払い。

営業もできなくなっていた。

 

そんな時に、従業員と隠しておいた合い鍵。

玄関マットの下に隠していた、が、なくなっていた。

店に入ると、カラオケの設備、未開封の酒、店の飾りにいたるまで、すべてなくなっていた。

同じフロアの店に聞くと、外国人風の人間が運んでいたという。

ビルの警備員も、不正に開かれたドアではないので、警報もならず、深夜から早朝にかけて、開錠されていた。

 

もう、終わり、だった。

 

自分の手には負えない状態だった。

 

サラ金、街金からの借金、130万円。

日掛けの融資80万円。

保証人になって背負った借金、30万円に月二割の利息。

客の金貸しにトイチで借りた10万円。

未払いの家賃、45万円を三ヶ月分ほど。

カラオケの未払いリース代金30万円。

店内のゲーム機の売り上げが20万円の補填。

 

オレは飛んだ。

仲の良かった客のヤクザとの付き合いだけが残った。

 

オレを知る街の人間の間では、飛んで、薬絡みでヤクザになった。そう言われ、噂が広まった。

 

何かが弾けた日

二週間、返済を最優先で店を回した。

 
営業の準備をしていた時間に電話が鳴った。
今日の返済はどうしたのかという。
 
オレは確かにポストに置いて帰った。
帰りにオレが郵便受けに向かうのは、従業員も見ていた。
オレは受話器越しに怒鳴り、喚き散らしていた。
そんなやり方が、お前らクソ金融のやり方か?
オレは間違ってない。
オレはお前らの返済方法に従ったまでだ。
 
詐欺にあったようだった。一生懸命に返済に当てていた、尊厳を踏みにじられた気持ち。
 
警察に窃盗、盗難の届け出に行った。
なぜ、郵便ポストに現金なのか、説明するのも恥ずかしかった。
繁華街においては、多くある犯罪なのだと聞いた。
額も大したことなく、本気で聞いてくれてるとは思えなかった。
 
あまりの報われなさに、オレの中の何かがプツッと切れた。

 

104パーセント

そうだな。

そうだったな。
 
ヤクザ系の話と前後してしまうが、オレは日掛けにも手を出していたんだった。
自営業者なら度々目にしたことであろう、日掛け融資のチラシ。
日銭である、毎日の現金収入がありそうな事業所にはポストに、それこそ山のようにチラシが投げ込まれていた。
 
例えば、30万円を借りるとする。土日以外の平日、営業が終われば、その日の売り上げから一万円なりを返済していく。三ヶ月弱をかけての返済。融資が高額なら、100回だった。
毎日集金することの手間と、一年以内の融資のため、出資法金利の制約を受けず、104パーセントだか108パーセントの年率に換算した金利が許されていた。
 
オレは30万円と50万円、二社から借りていた。
 
初めて、恐る恐る電話をし、説明だけと担当者を呼んだ。
人の良さそうな、ずんぐり体系の担当者。
即、申し込み。
返済は客や従業員に知られたくないだろうからと、ビルの一階の郵便受けに、郵便物の下に潜り込ませる。
鍵、といってもダイヤル式の3桁の南京錠の番号を共有する。
 
この融資で、滞っていた従業員の給料に当てたり、備品を買ったり、とにかく、店のために前向きに投資のように使った。
店のために借りた金。
久々、いや初めて、店のために思いきり使う金。
そして、そのやる気を売り上げという現金に代え、毎晩返済しなければならない。
 
10回、15回、苦しいながらも毎晩、返済への金を優先した。現金が回らない日でさえ、女の子の日払い給与を翌日に持ち越し、頭を下げ、それでも帰りにポストに金を置いて帰った。

 

思った通り

無理やり保証人になることになってしまった二週間後、電話が鳴り、直後に店に金貸しのヤクザがやってきた。

代行さんの返済が行われておらず、保証人のオレに融資の残金と利息の全額を支払えという。
心底失望した。腹が立った。死んで欲しかった。
金貸しのヤクザと逃げた代行さんとオレ自身に。
もちろん、一括で30万円なんかある訳ない。助かる方法は一つだった。
このクソ野郎からオレが30万円を借り、代行さんと 借用書の分の返済に当てる。
オレは30万円の融資を受ける際の条件、それは保証人を付けること。
 
どこに、こんなクソヤクザの融資の保証人が居るんだ?
 
飲み屋で働き始めた当初、よその飲み屋、風俗、テレクラ、女遊びの好きな客と仲良くなった。
オレにそういう世界の遊びを教えてくれた奴だ。
そういう女遊びの世界、とカッコつけて言ってみたが、その客はそれほど金も無くて、繁華街の中でも、数段ランクの落ちる店の中の、あるひとりだけ、可愛い子が居るだとか、あそこのヘルスはタダマンできるとか、そんな遊びだ。
 
オレのオープンさせた店にも出入りしていた。
この頃は店と客の立場もいい加減になり、酔っ払ったオレが役に立たなかったり、ヒマで出て行ったりで、オレの代わりに店番をしてくれたりするようになっていた。
 
オレが一円も関係のない、クソ融資の30万円。
月に二回の返済。利息だけで一回3万円。
3万円、かき集めて支払ったところで、借金は一円も減らない。
 
彼が保証人になってくれた。
絶対に迷惑はかけられない。

 

鏡の中のオレ

国の金融機関から金を引っ張る仕事なんか、平の組員の仕事じゃない。

頭代行、上の人間の登場だった。
 
オレと仲の良いことは聞いていて、助けてやって欲しいと聞いている、必ず、融資を受け取って店を立て直すなりしないとと言う。
 
信頼たらしめる芝居、だったのだろうし、それを疑う余裕もウツワもオレにはなかった。
生き残るためには、この金が全てだ。
 
来る日も来る日も、国金の支店長とは都合が合わずに会えない日が続いた。 今ならウソかもと疑うが、半分そう思っても、半分はすがっていた。
これしかなかったのだ。
 
それにだ、オレだけが儲かる話ではなく、周囲にも金が入る話だ。
騙されているわけじゃない。
 
その後、話が進まないのは、代行が自分のことで一杯で、国金の話どころじゃないという。
 
翌日、代行から電話があった。
ビルの下まで降りてこいという。
大柄な、見事にヤクザ、風な男と一緒だった。
オレを指し、コイツだ、と言った。
後の話は直接してくれ、そういう内容だった。
ついに国金側の関係者に会えた、やはり、向こうも闇の金絡みはヤクザが絡むのか。
そう思ったが、ついに融資を受ける段階にきた、その安心が上回った。
 
代行は数十万円の札の束を受け取り、後は任せたと、そそくさと繁華街の人並みに消えた。
大柄な男は書類を取り出し、オレに署名を促した。
500万円の国金の借用書。
ではなかった。
30万円の借用書、その保証人がオレの役だった。
そんなバカな、オレは電話を掛けるも、誰も繋がらない。
知らないと言っても、オレは融資、金を渡す瞬間に立ち会っている、大柄な男はそういう。
 
死んでもなりたくなかったものにならされた。
月に二割の30万円の保証人。
 
子分に当たる常連のヤクザによると、代行は返すから大丈夫、だと言った。
代行は国金の金で返す予定なのだと。
 
そのころのオレは気付かずに、周囲からすればヤクザの一員だったし、店に来ていた他の組織のヤクザからは、これ以上の付き合いをやめた方がいいと、ずっと前から言われていていて招いたことだった。
だから、助けてもらうこともお願いできなかった。
 
ヤクザからの借金?知らんでいい。俺が出るよ。
頼もしいヤクザがいて安心もした。
それで少しは気が持ち直した。
 
鏡の中のオレには驚いた。
どう見てもヤクザの目つきのオレがいた。

 

頼りの綱

常連客の暴力団関係者は金になる元を捜していた。

酔っ払っては、大きく覚醒剤の取り引きで儲けた昔話、懲役の話をする。
どこか憎めないタイプの人だった。
一度、辞めた女性スタッフの彼氏、半グレみたいなヤツ、と金銭で揉め、店に押しかけられた時、たまたま店で居合わせ、ヤクザらしい剣幕で追い払ってくれた。
それ以降も、中国人との仕事を取り持ったりして、 客以上の関係だった。
 
店を閉めた後は毎晩のように、一緒に飲みに出掛けた。
オレの店がうまくいってなく、金も持っていないのはバレていた。
 
彼が言うには、店の権利書、契約書と営業許可があれば、ある裏のルートで、支店長に直結し、国民金融公庫(当時)から融資が受けられる、とのことだった。
その額は500万円ほど。
150万円ほどのキックバックが発生する、が二か月分の返済をすれば、後は払わないでいいらしい。
 
形式上、程度に督促もされるが、踏み倒すことがコミになっている、金融機関の上層部もグルになっている裏の稼業、だという話。
 
書類の書き込みやコピーを済ませ、それらを渡し、ヤミ融資の説明がある場を待った。
説明とは、大きな事件にならないように、融資や返済の口裏合わせをするというものだった。
 
夜の店には銀行関係、金融関係の客も多かった。仕事の話を聞く機会も多かったし、自分が融資が受けられないブラックのころには、その仕組みを散々聞かせてもらったし、ヤミ金関係の客には融資や取り立てにも立ち会わせてもらった。
そこで支店長クラスから聞いたのは、未回収、コゲ付きには支店長への許される額、つまり、失敗していい額がある、というものだった。
そういう枠を利用して融資され、キックバックで私腹を肥やす悪徳支店長が存在すると聞いていた。
支店長とはいえサラリーマンの身分、金欲しさに手を出す。
 
オレの頭の中じゃ辻褄の会う話だった。
 
昼間から大っぴらに会うことはせず、夜の間にどこかで、という。
 
もう手を汚して手に入れる350万円と裏社会の空気に浸り、金にまみれた安心感の中に沈んでいた。
 

 

金貸しの末路

萬田銀次郎に憧れた金貸しは、酒と一緒にハルシオンを飲んだ。

 
機嫌が良ければ、すこぶる優しく、面倒見も良く、感じさせた。
 
オレの彼女も連れて、みんなで飲もう、いつもそう言っていた。
 
新しく入った、ウチの店の女性スタッフの、前の店の客で、席に着きたくないと彼女は言う。
こういうガラの悪いタイプを苦手とする女の子は多い。
 
ぐらいに思っていた。
次のときもそうだったし、金貸しも店内で、その子の存在に気付き、席に付けるなと言った。
 
以前、彼女の彼氏はガソリンスタンドで働いていた。
派手なベンツでやってくる客。
次第に仲良くなり、彼女の存在を聞き、金貸しの自宅兼事務所で飲み会をした。
その席で、彼氏は記憶もなくなるほど、眠り込むほどの量の酒を飲まされ、同様に飲まされた彼女はこの間に口説かれ、犯されたという。
 
金貸しにとっては、オレも同様だった。
このことを聞いて、距離をおくようになった。
オレの人を見る目なんか、どうしょうもない。